ナマケモノは、かつて「醜く」「使い道がない」「世界で最もばかな動物」とまで言われ、何世紀にもわたって誤解されてきました。
それにしても「怠け者」とはひどい命名です。
英語名もsloth(怠惰、無精)ですのでひどいものです。
しかし、最新の研究によって、彼らのユニークな生態と、他の生物との驚くべき共生関係が明らかになっています。

ナマケモノの「スローライフ」は生存戦略
ナマケモノが動きの遅い進化を遂げた最大の理由は、低カロリーの食事に適応するためです。
低栄養価の主食:
ナマケモノの主食は、木の葉です。
特に彼らが食べる葉には、栄養価が低く、消化に時間がかかり、さらに毒性を持つものも少なくありません。
エネルギー節約の必要性:
少ない栄養で効率よく生命活動を維持するためには、可能な限りエネルギー消費を抑える必要があります。
活発に動くことは大量のエネルギーを消費するため、ナマケモノは動きを極限までゆっくりにすることで、エネルギー収支をプラスに保っています。
低代謝率:
彼らは哺乳類の中でも非常に低い代謝率を持っています。
体温も他の哺乳類に比べて低く、これもエネルギー消費を抑えるための適応です
ナマケモノと共生する「小さな宇宙」
孤独な動物と思われがちですが、ナマケモノは実は多くの生物と共生しています。
彼らの分厚い被毛は、ガや菌類、ダニなど、さまざまな生き物の住処となっています。
ウィスコンシン大学マディソン校の野生生物生態学者ジョナサン・パウリ氏は、この共生関係を「ナマケモノは生きるために予想外の生物を動員している不思議で魅力あふれる変わった動物です」と語っています。
命がけの排便とガとの共生
ミユビナマケモノはほとんどの時間を木の上で過ごし、食事も睡眠も木の上で行います。主食の葉には毒があるため、4つの胃と肝臓でゆっくりと分解します。
排便は週に一度程度ですが、この時だけは危険を冒して地面に降ります。この移動は捕食者から身を守るすべがなく、コスタリカでの研究では、ナマケモノの死因の半分以上がこの排便時の移動によるものでした。
しかし、この命がけの排便が、ガとの共生にとって重要な役割を果たしています。
ガの繁殖:
排便を合図に、ナマケモノの被毛に暮らすガのメスは、新鮮な糞に卵を産み付けます。
ガからナマケモノへの恩恵:
糞を食べたガの幼虫が成長し、成虫となって新たなナマケモノを探しに飛び立ちます。
ガは排泄物や死骸でナマケモノの毛に窒素などの栄養を与えます。

ナマケモノの毛が緑色な理由と藻の役割
ガがナマケモノの毛に窒素などの栄養を与えることで、雨が降ると藻が発生しやすくなります。
野生のナマケモノの毛が緑色なのはこのためです。
この緑色の藻は、ナマケモノにとって以下の点で役立っています。
保護色:
上空の猛禽類から身を守る保護色となります。
栄養補助食品:
胃の内容物から藻が確認されており、藻がナマケモノにとって一種の栄養補助食品となっている可能性が指摘されています。
ガが多くいればいるほど、窒素や藻の量も増えます。

人類を救う可能性を秘めたナマケモノ
ナマケモノ、ガ、藻はそれぞれが共生関係の恩恵を受けていることが明らかになっています。
さらに、コスタリカの研究チームは、ナマケモノの体表に存在するマイクロバイオーム(微生物叢)が人間の健康促進に役立つ可能性を調査しています。
ナマケモノは疾病や感染症に強い抵抗力があると考えられており、実際に彼らの被毛のサンプルから、新しい抗生物質の誕生につながる可能性のある未知のバクテリアが分離されました。
多くの抗生物質が効かないスーパー耐性菌が問題となる中、ナマケモノがその解決策となるかもしれません。
かつては「役立たず」と見なされていたナマケモノが、実は奥深い生態を持ち、さらには人類を救うヒーローになる可能性まで秘めているのです。

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