星槎大学客員教授 北川達夫
能力の要素
認知能力:
①基礎学力 ②基礎的な知識・技能 ③専門性・専門知識
非認知能力:
④問題解決力 ⑤批判的思考力
(④⑤は認知能力に分類されることもある)
⑥協働力 ⑦コミュニケーション力 ⑧主体性 ⑨自己管理能力 ⑩実行力 ⑪統率力 ⑫創造性 ⑬探求心 ⑭共感性 ⑮道徳心 ⑯倫理観 ⑰規範意識 ⑱公共性 ⑲独自性
非認知能力は新しい概念なので、人によって分類が異なることがあります。
ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン氏が「非認知能力」という言葉を流行らせました。
彼が調査した結果は以下の通りです。
ペリー就学前計画
実施場所:
米国ミシガン州イプシランンティ市ペリー小学校付属幼稚園
対象者層:
低所得者層アフリカ系アメリカ人の3歳児で、学校教育上の「リスクが高い」と判定された子供たち(IQ70~85)
対象者数:
123名(被験者58名 vs 非被験者65名)
うち、調査時点で行方不明は6%。統計的優位性は確認済み。
※統計的優位性=「偶然ではなく、実際の効果または差がある」という結論を導き出すための指標です。
実施期間:
1962~1967年
教育内容:
3~4歳児に対して、2年間(10月~5月)に渡り、環境を通した子どもの主体的な活動から学習させる「ハイスコープ」カリキュラムに基づき、下記の教育を施す。
※ハイスコープカリキュラム=アメリカの幼児教育カリキュラム
①学校教育
(平日午前2.5時間、教師1人に対して幼児5.7人)
②教師による家庭訪問
(週1回1.5時間)
③親を対象とする少人数グループミーティング
(毎月)
実施主体:
心理学者ワイカートらの研究グループ
(その後、ハイスコープ教育調査財団が追跡調査)
追跡調査:
3~11歳(毎年)、14、15、19、27、40歳時点
(以降継続中)
幼児教育を受けたか受けなかったかによる差

やはり、幼児教育を受けた人の方が基本的な知識の獲得、学歴、年収で上回っています。
逮捕歴5回以上の項目のみ、幼児教育を受けた人が下回りました。
幼児教育を受けたか受けなかったかによる認知能力の差

幼児教育による認知能力の優位性はやがて失われてしまいます。
しかし、追跡調査を行った最初のグラフにあるように、幼児教育を受けた子どもは、学力、学歴、年収、責任能力において優位に立っています。
ヘックマン氏は、幼児教育によって認知能力以外の能力が高まったからだと考え、その能力を非認知能力と呼び、将来の経済的な成功には「非認知能力」が重要だと説きました。
最近では、経済的成功という言葉をウェルビーイングという言葉に置き換えて使われています。
※ウェルビーイング=身体的、精神的、社会的にも良好な状態にあることを指す概念で、幸福や満たされた状態を意味します。言い換えるとその人なりの幸せです。
大人への「非認知能力」の教育は有効なのでしょうか?
⑥協働力 ⑦コミュニケーション能力 ⑧主体性 ⑨自己管理能力
などは、大人にとっても重要な能力です。
よって、大人になってからの「非認知能力」の教育も重要と言えます。
確かに、幼児期に非認知能力を伸ばすと効果は大きくなります。
しかし、非認知能力は大人にとっても重要な能力ですので、伸ばしていく必要があります。
「非認知能力」はどうやって育むのでしょうか?
子どもが何かに挑戦したり、何かを工夫しているときに応援することが大事です。
無駄な努力になりそうだったり、失敗しそうなときでも挑戦や工夫を止めさせないようにします。
失敗を肯定的にとらえることも大事です。
子どもが失敗から学び、挑戦し続けることが大事なのです。
「私は失敗したことはない。ただ、うまくいかない1万通りの方法を見つけただけだ。」というエジソンの精神に学びましょう。
親側にとっては心のゆとりが必要ですが、親自体の非認知能力の訓練になるのです。
感情をコントロールする力は大人にとっても子供にとっても重要な非認知能力です。
「非認知能力」を育むには「振り返り」が大切です。

これを見た小学生がどのような意見を述べたのかを見てみましょう。

立派な意見です。
大事なことは、「他責思考をしないようにする。」
「『誰』のせいではなく、『何』のせいなのかを考えるようにする。」
上記のチームは『何』のせいで負けたのでしょうか?
「チームワークが悪かった」せいで負けたのです。
というようにして子どもと学んでいきます。
読み聞かせが「非認知能力」を向上させる
次は物語を利用して子どもの非認知能力を育みます。

ミコの悲しい気持ち、ユウの気持ち、ばあちゃんの気持ち、ユウの気遣いなどを親子で共有していきます。
一つの物語世界に、おとなと子どもが一緒に向き合って、「これ楽しいな」「これワクワクするな」「これ悲しいな」という思いを親子で共有していくのが読み聞かせです。
思いを共有できるほど信頼できる人が近くにいて、そして自分を受け止めてくれるような関係があるということが、基本的自尊心を育んでいくと考えられています。

※「社会的自尊心」=認められたり、ほめられたり、優れていると実感できたり、価値があると思えたりすれば高まるが、失敗したり、叱られたりするととたんにしぼむ状況や状態に支配される不安定な感情です。
※「基本的自尊心」=自分の存在をありのままに肯定し、かけがえのない存在として尊重する感情です。他人と比較することなく、自己の価値を内的に感じ、自分を大切に思う気持ちのことです。自己肯定感の一種であり、揺るがない自己の根源的な感情と言えます。
物語(読み聞かせ)を使って「非認知能力」を育むことができます。
物語の登場人物ならばそのように行動するかもしれないけれど、自分だったら違う行動をするだろうという風に、物語の進行の中で、自分ならばどのように行動すべきかというシミュレーションができます。
そのためには「読み聞かせ」の際に声がけすることが重要になります。
「なぜそうしたんだろうね?」「なぜこんなことを言っただろうか?」「なぜ泣いたんだろうか?」
と子どもに声がけしていきます。
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